植物は種々の生物活性物質を含み,新たな医薬品を開発できる可能性がある宝庫です.しかし熱帯雨林をはじめとして世界的規模で植物の種の多様性は急速に失われつつあり,それらの薬用資源としての検討も急がれています.世界各地で使用されてきた民族薬物の中にも未解明な成分が数多くあり,また各種の薬理活性を指標に分画精製を進めると,既知化合物の中からも思わぬ化合物が新たに活性物質としてうかびあがってくる場合が少なくありません.そうした観点から,世界各地の植物資源について,国際的な共同研究をも進めながら,新医薬品の基礎となる活性物質の開発研究を進めています.
他方,中国や日本では中医学,漢方医学などとして,伝統的に種々の薬用植物を組み合わせて使用し,処方(薬方)として効果的な治療方法が工夫されてきました.しかしながらそれらについては多くの成分がどのように薬効に関与しているのか,人体への作用に最終的に関与している物質は何か,成分間でどのような相互作用がおこっているのかなど未だに明らかでないことがほとんどです.こう
した伝統医学での利用の基礎となる科学的裏づけを,物質面を中心に行っていこうとしています.
以上の観点から,当研究室では世界に先駆けて薬用植物や食材など天然素材中のポリフェノールを中心とした化学構造研究を行い,今までに数多くの新規化合物の化学構造を解明してきました.さらにそれらの抗酸化作用をはじめ,発癌プロモーション抑制作用,抗HIV作用,宿主介在性抗腫瘍効果など種々の機能面についても開拓してきました.しかしながら様々な化学構造と機能が明らかにされてきているにもかかわらず,これらポリフェノールが実際に生体内ではどのような挙動を示し,機能を発揮しているのか,未だ不明な点が多く残されています.このような背景から,薬用植物や機能性食品中のポリフェノールについて,その生体利用性に関する研究や医薬品との相互作用に関する研究なども行っています.