Statistical significance よりも Clinical significance を

一緒に研究室を立ち上げてくれた6年生にはずっと言い続けてきたことがあります。一つ目は、集団に対して効くか効かないかには私はあまり興味はなく、目の前の人に効くか効かないのかを知りたいということ。二つ目は、P値にこだわってはいけない、ということです。これらは自分の臨床現場での拙い経験に基づく信念です。医療現場では、目の前の患者さんにとっては、今から使う薬が多くの人々(集団)に効くという事はどうでもよくて自分に効くか効かないかが知りたいし重要だからです。効くか効かないかの評価は、量的研究の世界では多くの場合統計学が用いられstatistical significance (統計学的有意性)の検定が行われます。例えば、予め決めておいた評価項目について、薬を使った集団と使わなかった集団を比較して、使った集団の方が評価項目のスコアや数値が概ね良ければ、その薬は有効である可能性があると判断します。しかし実際にはどちらの集団にも効いた人(薬を使わない集団で効くことをプラセボ効果といいます)と効かなかった人がいるため、確率論の世界になり、両者の評価項目に差がついたのはたまたま(偶然)なのか、そうではないのかを判断するために検定が使われ一般的にP<0.05だと有意な(偶然ではなく味のる)差であるとされます。昔から研究者は、自分の研究で P値が0.05未満になれば大喜びし、0.05以上になればがっかりするという傾向がありました。今年(2019)のNature 567巻305-7に「Retire statistical significance」と題するコメントが掲載されました。P<0.05か否かで全てを決めるのは危険、という内容です。2016年にもアメリカ統計協会から「P値や統計学的有意性は、効果の大きさや結果の重要性を意味しない」ことを明記した声明が出ています。私も岡大病院で頻繁に新薬説明会に立会っていますが、治験でstatistical significanceな結果が出たのはわかるが、その差は、果たして患者さんの症状を大きく改善したり、予後に影響する差、すなわちclinical significance(臨床的な意義)のあるものかを尋ねるようにしています。高額な医療費を支払い副作用も強く苦しむ可能性が高いのに臨床的効果が大きくなければ、患者さんは決してハッピーではないからです。

 先週19日に6年生の卒論発表会が終わりました(アルバムに様子を掲載)。研究の方法も一緒に考え、一から作ってきてくれた彼らがもうすぐ巣立っていくと思うと少し寂しい思いもありますが、当研究室から初めての卒業生となりますので嬉しく誇らしくもあります。上述した内容を含めてここで学んだことを社会に出て医療の現場で役立ててもらえたら主宰者として一番の喜びです。

2019年11月28日