疾患薬理制御科学分野のホームページへようこそ。本分野は、2016年8月に岡山大学大学院医歯薬学総合研究科に新設された研究室です。
研究室主宰者は、これまで基礎研究の場(北海道大学薬学部)と臨床現場(千葉大病院)で、個別化医療の研究に携わってきました。この度、岡山大学で新たな研究の機会を与えて頂きましたので、研究室にも新しい名称をつけさせていただきました。
薬理学と聞くと、普通はくすりの作用機序を勉強する授業を思い浮かべると思いますが、本来、薬理学は、低分子の外来異物と生体の相互作用を研究する広範な学問分野です。生体に作用する異物は、くすり以外に人が積極的に摂取する食物やサプリメント、嗜好品に含まれる化学物質から、無意識的に暴露されている環境汚染物質など実に多種多様で、薬学領域では古くからその全てが研究対象となっています。
主宰者は、臨床現場において薬物応答性の個体差に関する遺伝的情報を活用することで、医薬品や症例によっては薬物治療の問題を解決できる例も確かにあることを経験しましたが、体細胞変異と異なり生殖細胞系列変異(遺伝子多型)は、それ単独では薬物応答性を的確に予測することは難しく、多くの場合は患者さんの背景の違いや併用薬物、服薬遵守の有無など非遺伝的要因の影響がむしろ大きいことを痛感しました。
近年、画期的で効果の高い新薬が続々と発売される一方で、耳を疑うほど高額なものもあり、患者さんだけでなく国の医療費負担増から国民皆保険制度の維持すら困難になりつつあります。世界に類をみない超高齢社会に突入した日本は、今後どうすべきかを真剣に考える時期にきており、国は住み慣れた土地で医療から介護までが一体的に提供できる地域包括ケアシステムの構築を進めています。
そうした社会の急激な変化や自らの臨床現場での経験を通じて、研究室で新たに取り組むべきテーマ、社会に還元できるテーマとして何がふさわしいかを考えた時、岡山大学が健康寿命延伸のための研究推進拠点であることもあり、すぐに浮かんだのは疾患の予防でした。中でも生活習慣病は、発症すれば症状のコントロールに永続的な薬物治療が必要なばかりか、合併症が悪化すれば介護も必要となって家族を巻き込み、生活の質は著しく低下し家計も圧迫します。一方、遺伝的なリスク因子があっても環境因子すなわち生活習慣を是正すれば発症予防がおおいに期待できる疾患です。
実際、運動や食生活の改善は生活習慣病の一次予防に効果があるといわれています。しかし日本人ではそのエビデンスは極めて限られています。日本人は遺伝的にも生活習慣も欧米人とは大きく異なるため日本人での予防のエビデンスが必要です。そもそも高血圧も高血糖も高脂血症も自覚症状に乏しく、また運動や食生活を改善してもダイエットのように効果が目に見えるものでないため、予防を実践するのは、ある意味治療よりも困難と言えるでしょう。
科学的根拠を示しつつ摂取する異物を制御し、延(ひ)いては疾患をも制御する、そうした思いが「疾患薬理制御科学」には込められています。
もちろん疾患になれば薬物治療が必要であり、薬の効果と安全性の面から治療の個別化は今後も必要です。したがって、当研究室では「個別化」をキーワードに予防から治療までのエビデンス作りを、主としてヒトを対象に行っていきたいと考えています。
本ホームページは、当研究室1期生の鎌田早紀さん、山本弥生さん、篠山泰子さん、濱田浩司君が、忙しい中一生懸命考えて下さり、試行錯誤しながら作成してくれました。この場を借りて、心より御礼申し上げます。
2017年2月
研究室主宰者 疾患薬理制御科学分野 有吉 範高