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ポリアミンとは

-- Polyamines --
Spermine

  ポリアミンは複数のアミノ基を持つ脂肪族アミンで、プトレシン、スペルミジン、スペルミンなどが知られています。ポリアミンの生理作用は多く、細胞増殖、分化、核酸の安定化、タンパク質合成の促進、炎症の抑制などが知られています。ポリアミン生合成の律速酵素であるオルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)のノックアウトマウスが致死的であることからポリアミンは生命の生存に必須な分子であることが明らかになています。また、ポリアミンは細胞外に分泌されることも知られています。


小胞型ポリアミントランスポーター

Vesicular Polyamine Transporter (VPAT)
Spermine

  中枢神経系では神経やアストロサイトからエキソサイトーシスによって分泌されたポリアミンがNMDA型グルタミン酸受容体の活性をコントロールすることが知られています。NMDA受容体は記憶・学習といった高次神経活動に関わることから、中枢神経系でのポリアミンの作用に関心が集まっていました。しかし、分泌小胞にポリアミンを運び込むトランスポーターが見つかっていなかったため、脳におけるポリアミン作用の全体像はよくわからないままになっていました。
  私たちはアドレナリンやドーパミンなどのモノアミン類を分泌小胞に運び込む小胞型モノアミントランスポーター(VMAT)のファミリーに未知の遺伝子(SLC18B1)があることを発見し、その遺伝子産物が分泌小胞にポリアミンを運ぶトランスポーターであることを見出し、小胞型ポリアミントランスポーター(VPAT, Vesicular Polyamine Transporter)と名付けました。この発見により、VPATを指標として未知の分野である分泌型ポリアミンの生理機能の解析が進展するものと期待しています。

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(参考文献)

       Hiasa, M., Miyaji, T., Haruna, Y., Takeuchi, T., Harada, Y., Moriyama, S., Yamamoto, A., *Omote, H., Moriyama, Y. (2014) Identification of a mammalian vesicular polyamine transporter.  Scientific Reports 4, 6836. 

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肥満細胞とVPAT

-- Mast cell and VPAT --
MastCells

  肥満細胞は粘膜や結合組織などに存在して刺激によってヒスタミンなどを分泌する免疫細胞で、アレルギー反応に深く関わっていることが知られています。この細胞の分泌顆粒(分泌小胞)にはスペルミンやスペルミジンなどのポリアミンが蓄積していることが知られていました。私たちはVPATがこのポリアミン蓄積に関わっているか検討しました。RT-PCR法、ウェスタンブロット法および免疫染色方によって、肥満細胞の顆粒にVPATが存在することを明らかにしました。この細胞から得た膜小胞はATP依存的にポリアミンを取り込み、VPAT阻害剤によって取り込みは阻害されました。また、IgE刺激によって肥満細胞からポリアミンがエキソサイトーシスによって分泌されることを見出しました。VPAT遺伝子をRNAi法で抑制したところ、肥満細胞からのポリアミンとヒスタミンの放出が低下しました。この低下はポリアミンを肥満細胞に加えることで回復しました。
 以上の結果から、VPATが肥満細胞の分泌顆粒に存在し、ポリアミンを顆粒内に輸送・蓄積すること、蓄積されたポリアミンはエキソサイトーシスによって細胞外に放出されること、放出されたポリアミンは肥満細胞に作用してヒスタミン放出を促進することが明らかになりました。
 したがって、VPATはポリアミンの輸送を介してヒスタミン分泌をコントロールしていることになります。本研究の成果はVPATタンパク質をターゲットとした新しい抗アレルギー薬の開発の手がかりになると大いに期待されます。

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(参考文献)

        Takeuchi, T., Harada, Y., Moriyama, S., Furuta, K., Tanaka, S., Miyaji, T., Omote, H., Moriyama. Y., and Hiasa, M. (2017) Vesicular polyamine transporter mediates vesicular storage and release of polyamine from mast cells. J. Bio.l Chem. 292, 3909-3918. 

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