主な研究テーマ

一酸化窒素をはじめとする酸化ストレスの生体内分子作用機構に基づく新規薬物の開発

  1. 孤発性パーキンソン病/アルツハイマー病発症機構の解明
  2. 病態形成に連関した小胞体ストレス惹起機構の解明
  3. レドックスによるエピジェネティクス制御機構の解明
  4. 外来性環境物質(重金属,PM2.5含有物質,農薬,食品成分など)による毒性発生機構の解明
  5. これらの知見を活かした新規診断法/治療シーズの開発

研究の概要

私たちはこれまでに内在性脳虚血抵抗性因子の単離を種々の方法から試み,その一つとして小胞体内腔に存在するタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)を同定した(JBC 2000).PDIは未成熟のタンパク質システイン残基に特異的に結合して正しいS-S結合の構築に関わる,タンパク質成熟の過程に必須な酵素である.2006年に PDI触媒領域のシステイン残基がNOの標的となり,酸化(S-ニトロシル化)されることで酵素活性が消失することを発見した(Nature 2006).この修飾はヒト孤発性(遺伝的な背景を持たない)神経変性疾患患者の死後脳においても顕著であり,酸化ストレスがどのような機構で変性タンパク質を蓄積させるかを世界に先駆けて報告した.この成果については日本のみならず,世界各国でも報道されるに至った.

さらに,私たちの研究室では,NOの生体内標的タンパク質を網羅的に同定し,その生理的/病態生理的機構を解明することを目指した.その結果,多くの標的を同定することに成功した(PNAS 2011).これらの成果を,科学的根拠に基づく早期診断法の開発や根本的治療薬の無い神経変性疾患(パーキンソン病やアルツハイマー病など)発症機構の解明に繋げたいと考えている.さらには,NOによる小胞体機能破綻/小胞体ストレス惹起は神経変性疾患ばかりでなく,糖尿病/関節リウマチ/重金属毒などの病態形成にも関与していることが示唆されており,これらについても精力的に進めつつある.一方で,薬理学的な研究にも着手し,in silicoスクリーニングからNO標的分子特異的な酸化修飾のみを抑制するシーズ(分子特異的酸化阻止薬と命名)開発を行い,細胞レベルだけでなく病態モデル動物での検証も進めている.

最近では,外来性環境物質の中,親電子性物質の解析も行なっている.ナフトキノン類などの化学物質はタンパク質システインやリジンなどに共有結合することが知られている.日々の生活の中で,日本人の多くは米やマグロなどを好んで食べ,時にPM2.5が含まれる大気汚染の中で呼吸をしている.また,ある種の農薬で育てられた野菜や果物を食す場合もある.これらにはごく微量ではあるが,メチル水銀,カドミウム,ナフトキノン類が含まれており,おそらく体内である種のタンパク質と結合することで様々な影響を与えていると予想される.この標的分子の探索と生理的・病態生理的役割について解析を進めている.2021年には,PM2.5中に含まれている1,2-ナフトキノンが上皮成長因子受容体(EGFR)に共有結合し,EGFと同様の効果を発揮することを報告した(JBC 2021).また,メチル水銀によって神経特異的かつ脳部位特異的に小胞体ストレスが起こり,細胞死が誘導されることも明らかにすることができた(Arch. Toxicol. 2021).

最近の主な発表論文

  1. Nakahara K, Hamada K, Tsuchida T, Takasugi N, Abiko Y, Shien K, Toyooka S, Kumagai Y, Uehara T.: Covalent N-arylation by the pollutant 1,2-naphthoquinone activates the EGF receptor. J Biol Chem. 2021 Mar 8;100524. doi: 10.1016/j.jbc.2021.100524. Online ahead of print. PMID: 33705793
  2. Hiraoka H, Nomura R, Takasugi N, Akai R, Iwawaki T, Kumagai Y, Fujimura M, Uehara T.: Spatiotemporal analysis of the UPR transition induced by methylmercury in the mouse brain.Arch Toxicol. 2021 Jan 16. doi: 10.1007/s00204-021-02982-9. Online ahead of print. PMID: 33454823
  3. Fujikawa K, Nakahara K, Takasugi N, Nishiya T, Ito A, Uchida K, Uehara T.:
    S-Nitrosylation at the active site decreases the ubiquitin-conjugating activity of ubiquitin-conjugating enzyme E2 D1 (UBE2D1), an ERAD-associated protein.
    Biochem Biophys Res Commun. 2020 Feb 10. pii: S0006-291X(20)30271-0. doi: 10.1016/j.bbrc.2020.02.011.
  4. Takeda K, Nagashima S, Shiiba I, Uda A, Tokuyama T, Ito N, Fukuda T, Matsushita N, Ishido S, Iwawaki T, Uehara T, Inatome R, Yanagi S.: MITOL prevents ER stress-induced apoptosis by IRE1α ubiquitylation at ER-mitochondria contact sites. EMBO J. 2019 Aug 1;38(15):e100999. doi: 10.15252/embj.2018100999. PMID: 31368599
  5. Nakahara K, Fujikawa K, Hiraoka H, Miyazaki I, Asanuma M, Ito A, Takasugi N, Uehara T.: Attenuation of Macrophage Migration Inhibitory Factor-Stimulated Signaling via S-Nitrosylation. Biol Pharm Bull. 2019;42(6):1044-1047. doi: 10.1248/bpb.b19-00025. PMID: 31155581
  6. Takasugi N, Hiraoka H, Nakahara K, Akiyama S, Fujikawa K, Nomura R, Furuichi M, Uehara T.: The Emerging Role of Electrophiles as a Key Regulator for Endoplasmic Reticulum (ER) Stress. Int J Mol Sci. 2019 Apr 10;20(7). pii: E1783. doi: 10.3390/ijms20071783. PMID: 30974903 (review)

教員紹介

  • 上原 孝/Takashi UEHARA
    専門分野:薬理学
    所属学会:日本薬理学会,日本毒性学会,日本薬学会,日本生化学会,日本NO学会,SfN(北米神経科学会),SfRBMSociety for Redox Biology and Medicine
  • 高杉 展正/Nobumasa TAKASUGI
    専門分野:薬理学
    所属学会:日本薬理学会,日本薬学会,日本生化学会,日本NO学会,日本認知症学会、北米神経科学会

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