環境物質1,2-ナフトキノンが上皮細胞成長因子受容体に結合し活性化することを発見

2021.03.15

薬効解析学分野・上原 孝教授,中原健吾さん(博士後期課程2年),浜田恭平さん(修士課程修了),土田知貴さん(博士前期課程1年),呼吸器・乳腺内分泌外科学分野(医学系)豊岡伸一教授らの研究グループは、PM2.5などに含まれる環境親電子物質1,2-ナフトキノン(1,2-NQ)が上皮細胞成長因子(EGF)受容体を選択的に活性化する外来性化合物であることを突き止めました.
1,2-NQは体内に取り込まれたナフタレンの代謝産物ですが,大気やPM2.5中,あるいは排気ガス,タバコ煙などにも存在しています.したがって,私たちは日常的に,呼吸を通じて,ごくごく微量の1,2-NQに曝露されています.1,2-NQは求電子性分子(タンパク質)と共有結合(N-またはS-アリール化)しやすい特性を有しています.本研究では,1,2-NQが上皮細胞成長因子(EGF)受容体の特定アミノ酸(リジン残基)に共有結合し,結果として受容体を活性化することを世界に先駆けて明らかにしました.このことは,外来性環境物質である1,2-NQは生体内成長因子であるEGFと同様の効果を有することを示唆しています.事実,培養細胞に1,2-NQを添加すると,EGFと同様の生理応答(受容体のリン酸化,PI 3-キナーゼ­–Akt経路)が観察されました.このシグナルは抗アポトーシス効果に連関することから,血清飢餓による細胞死に対する影響を調べたところ,低濃度で確かに細胞死が抑制されることを見出しました.
一方,この経路の持続的な活性化はがんをはじめとする疾患発症に関わることが知られています.本知見はPM2.5などによる肺疾患形成メカニズムの解明と新規治療法の開発に繋がると期待されています.今後,高濃度あるいは長時間の1,2-NQ曝露による肺疾患発症との因果関係や大気汚染による生体への影響について解析する予定となっています.
なお、本研究成果は、2021年3月7日に科学誌 「Journal of Biological Chemistry」(Q1ジャーナル,IF:4.238, SJR:2.403)に掲載されました.

#本研究は文部科学省科学研究費 基盤研究(B),基盤研究(S),挑戦的萌芽研究などの助成を受け,筑波大学・熊谷嘉人教授との共同研究にて行われたものです。

雑誌名:Journal of Biological Chemistry (https://doi.org/10.1016/j.jbc.2021.100524)
題 名:Covalent N-arylation by the pollutant 1,2-naphthoquinone activates the EGF receptor
著 者:Kengo Nakahara, Kyohei Hamada, Tomoki Tsuchida, Nobumasa Takasugi, Yumi Abiko, Kazuhiko Shien, Shinichi Toyooka, Yoshito Kumagai, & Takashi Uehara*

(掲載日:2021年3月15日)
(お問い合わせ:薬効解析学分野 上原 孝)

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